台湾のウイルス研究所から誕生したウイルスベクターのCDMO
まずは会社のご紹介からお願いします。
Yuan様:当社のルーツは、台湾政府が出資した財団法人バイオサイエンス技術開発センターが設立したウイルス研究所にさかのぼります。2016年に生物安全性試験と品質試験に特化した台湾発のCROとして独立しました。現在の当社の主な事業は、細胞治療用および遺伝子治療製品用ウイルスベクターの受託開発・製造するCDMO事業と細胞治療、遺伝子治療製品、ワクチン、生物学的製剤の生物安全性試験及び製品出荷時試験の試験サービスになります。本社は台湾の新北市にあり、さらに新北市と新竹県にリサーチレベル~大規模商用製造に対応するGMP施設を所有しています。
ウイルスベクターの受託製造では、前臨床研究レベル、臨床治験レベル、商用レベルまですべて当社で完結するワンストップサービスを実現しています。取り扱うウイルスの種類は、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルスおよびアデノウイルスです。顧客の多くは台湾の会社ですが、日本のお客様も全体の約3割を占めています。
三井リンクラボ柏の葉1
日本法人(TFBS BIOSCIENCE合同会社)も設立されていますね。
Yuan様:日本は再生医療と遺伝子医療の先進地であり、我々にとっても重要な市場です。バイオ医薬の開発では、開発早期の段階で、後の開発過程で問題になるであろう様々な課題を見つけて解決しておくことは、開発を効率的に進めていく上で非常に重要です。そこで日本の会社や研究者の皆様と開発早期の段階からディスカッションできる環境の中で、一緒に開発を進めていく必要があると考え、日本にも拠点を設立しました。日本進出にあたっては、メディリッジ株式会社および帝人株式会社とパートナー関係を構築しています。昨年は、3社間で「遺伝子導入を伴う再生医療等製品の製造および開発に用いるウイルスベクターおよびプラスミド」の供給に関する業務提携の合意書を締結しました。
柏の葉R&Dラボの役割は「日本の研究者と共同で研究開発の早期段階を担う」
貴社の「強み」についてもお聞かせください。
Huang様:当社には、前身であるバイオサイエンス技術開発センターのウイルス研究所時代を含めると、10年以上にわたる開発実績と経験の蓄積があります。また我々は、研究開発から動物実験、製品製造・品質試験まで一貫して対応できる体制を台湾に有しています。製造施設については、FDA(米国食品医薬品局)認証をはじめ国際認証も取得しているので、当社で受託開発・製造した製品は、米国でも展開できます。また、当社が日本の顧客から受託した業務の報告書は、日本のPMDAで審査され、臨床試験を行う際のニーズを適切にサポートすることができました。
最近はバイオの世界でも台湾が活躍していますね。日台の違いはなんでしょうか?
Yuan様:台湾の会社は海外進出にも非常に積極的ですね。また台湾は、カルタヘナ条約(遺伝子組換え生物などを使用する際の規制措置を講じることで、生物多様性への悪影響の未然防止などを図る法律)を批准していないため、研究の自由度が高いのも特徴です。特に開発早期の段階で自由度の高い研究ができるのは、台湾の利点であり、初期の開発・製造サイクルを数カ月から1年ほど短縮できます。
一方で台湾は、日本と比べて小さな島国なので、海外市場にも進出しなければ、台湾だけではバイオ医薬のビジネスは成功しません。最近では、半導体産業を中心に台湾企業の日本進出も進んでいますが、バイオ医薬品の世界は、まだまだこれからといったところですね。
初めての日本進出では「三井リンクラボのサポートに助けられた」
新たに開設した柏の葉R&Dラボの役割について教えてください。
Yuan様:柏の葉R&Dラボを開設した目的は、開発早期の段階から、日本の会社や研究者の皆様と一緒に仕事をするためです。具体的には、柏の葉R&Dラボでは早期の研究開発を担当し、さらにスケールアップが必要になる開発後期および実際の製造は、台湾のラボが担当します。
三井リンクラボ柏の葉1を知ったきっかけはなんでしょうか?
Yuan様:我々のパートナー企業である帝人株式会社が、三井リンクラボ柏の葉1に再生医療等製品CDMO事業の拠点を構えていることが決め手になりました。柏の葉地域は、国立がん研究センター東病院や東京大学柏キャンパスなどアカデミアや研究機関が多く、また筑波大学から距離的に近いことも魅力的でした。交通の便も良くて、東京都内までのアクセスも良好です。
Huang様:三井リンクラボが国立がん研究センターの先生たちとのディスカッションの機会を用意してくれるのも、大変ありがたいですね。今後はさらに、再生医療・遺伝子医療の領域で活躍する、関東地域の研究者の皆様と意見交換できる機会も三井リンクラボに作ってほしいと期待しています。
実際に柏の葉ラボで活動を始めて、どのような印象を持ちましたか?
Yuan様:最初は「運用ルールが厳しい」ことに驚きました。しかし運用ルールが厳格なのは良いことであり、我々は規則を遵守するだけなので、逆に良い印象を持ちました。また競合他社をはじめ多くの会社が入居しており、気軽にコンタクトしやすい環境にあるのも良いですね。我々と同じフロアにも、気さくに声をかけてくれる会社があります。
Huang様:我々のような海外の会社の場合、日本にラボを開設するといっても、最初はわからないことばかりです。その点、三井リンクラボは様々なサポートを提供してくれたので、非常に心強く思いました。三井リンクラボの協力がなければ、これほど早くラボの運用を開始することはできなかったでしょう。その点でも、とても素晴らしいと思います。
三井リンクラボ柏の葉1を通じて今後実現したいことについてお聞かせください。
Ryu様:まだ入居して1年にも経たないので、現在はまだ皆様のことを知るので精一杯ですが、今後はさらに三井リンクラボ柏の葉1の他の入居者の皆様との交流を深めていきたいですね。
Yuan様:柏の葉R&Dラボは、我々にとって初めての海外ラボということで、まだスケールも大きくありません。今後は産学官の連携などにも挑戦し、日本におけるビジネスをさらに拡大していきたいし、ビジネス拡大を通じて、ラボの規模も拡張していきたいですね。