超高純度リチウムを効率的に回収する独自技術の社会実装を目指す
まずは貴社の事業内容についてご紹介ください。
星野様:当社は、わたしがQST(量子科学技術研究開発機構)で研究員をしていた頃に開発した、液体中のリチウムを超高純度・効率的かつ低コストで回収する「特殊イオン伝導膜」を用いた超高純度リチウム回収技術LiSMICのグローバルな社会実装を目指しています。本社は青森県の六ケ所村にあり、ここ柏の葉ラボではコンテナ型社会実装リチウム回収装置のLiSMICユニットの開発を進めています。
コンテナ型社会実装装置とはどんなものですか?
星野様:港でよくみかける「40フィートコンテナ」と同じサイズ(約2.5m×2.5m×12m)になる予定です。内部にセラミック製の特殊イオン伝導膜が何枚も並んでおり、ここに液体を通過させると、リチウムのみが伝導膜に吸着し、最終的に超高濃度のリチウムが回収される仕組みです。
QST時代の星野さんの研究について教えてください。
星野様:QSTの六ヶ所フュージョンエネルギー研究所(青森県六ヶ所村)で、核融合炉の燃料(トリチウム)の製造に用いるリチウムを分離・回収する方法を研究していました。当時は「海水からリチウムを分離する」という、夢のある研究も取り組んでいました。海水にはほぼ無尽蔵のリチウムが含まれているので、まさに理想的な燃料源といえます。この研究では、第5回新化学技術研究奨励賞を頂きました。

リチウムは核融合発電など今後も様々な用途が期待される物質
そもそも「リチウム」とはどういうものですか?
星野様:リチウムは金属元素の一種です。現在は、スマートフォンから電気自動車まで様々な製品の充電池(リチウム電池)に利用されています。特に電気自動車は電池のサイズも大きく、電気自動車の普及とともにリチウムの需要も急増しています。さらに今後は、廃車になる電気自動車も増えると見込まれており、回収したリチウム電池を再利用する「サーキュラーエコノミー(循環経済)」も重要になります。我々のリチウム回収技術は、電池からも回収可能なので、循環型社会にも貢献できると自負しています。

星野様:さらにリチウムは、未来の発電技術である「核融合発電」の燃料製造にも使われます。核融合発電の燃料は、重水素と三重水素(トリチウム)ですが、そのうちトリチウムは自然界にはほぼ存在しないため、核融合反応時に生じる中性子を利用して、リチウムからトリチウムを人工的に製造します。もし核融合発電が実用化され、リチウムも自国で調達できれば、輸入燃料に依存してきた日本の電力事情も大きく変わりますね。
リチウムの採掘場所は非常に限られているようですがなぜですか?
星野様:いまリチウムを採取している場所は、豪州のリチウム鉱山や南米のリチウム塩湖など、一部の地域に限られています。実はリチウム自体の地上の埋蔵量は300年ほどあるのですが、現在の回収手法でリチウムが得られる場所は少ないのです。この回収手法は「溶媒抽出法」が用いられていますが、その過程で多種多様な化学物質を大量に用いて不純物を取り除くため、環境負荷が大きいのです。そこで現在は、不純物の含有率が少ない場所から優先して採掘しています。もっとも、リチウム需要は今後も増加するため、いずれは不純物が多くても利用せざるを得なくなります。これに対して我々の技術は、不純物を取り除くのではなく、膜を透過させて欲しいリチウムを取り出す方法なので、不純物の濃度に関係なく、低い環境負荷で回収できます。

コンテナ型装置の開発に必要な場所を探して柏の葉ラボを設置
「三井リンクラボ柏の葉1」に入居された経緯をお聞かせください。
星野様:当社が目指すリチウム回収装置は、40フィートコンテナ相当とかなり大きいこともあって、開発段階でも200平米以上の規模のラボを探していました。最初はなかなか見つからなかったのですが、「三井リンクラボ柏の葉1」に適したスペースを見つけ入居しました。
実際に入居されて「ここが良かった」と思われたところはありますか?
星野様:建屋がきれいなのは良いですね。新たに人材を採用する際にも、建屋がきれいだと「こういう職場なら働いてみたい」と思ってもらえているようです。
今後さらに期待することはありますか?
星野様:もともと我々の事業は、ディープテックという新たな分野で、入居者の主な分野であるライフサイエンス関係ではないので、これまでは同じラボ内の他社の皆様と交流する機会が少なかったのですが、今後はもう少し皆様との交流を増やしたいと思います。柏の葉地域から東京に出るのは少し時間がかかるので、柏の葉地域だけで完結するような、ネットワーキングの場にも期待しています。
今後のビジネス展望についてお聞かせください。
星野様:まずは我々のリチウム回収装置LiSMICユニットを、現在リチウム発掘が盛んな豪州や南米の会社に販売したいと考えています。また回収装置の構造上、使用から1〜2年経つと伝導膜の性能が落ちてくるので、継続的なメンテナンスも定期的な収入源となる予定です。装置の運用についても、当社製品を導入した会社に対して、より効率的なリチウムの回収方法を技術指導するなど、コンサルティング的役割も担いたいと考えています。そして、核融合発電が本格的に動き出し、トリチウムの需要がさらに増加すれば、我々自身が「トリチウムの製造に必要なリチウムを製造する会社」になりたいと考えています。もっとも、核融合発電を目指す国際共同プロジェクトによれば、重水素・トリチウム核融合炉の運転による発電実証は2039年の予定なので、まだまだ先のお話になりそうですが(笑)。
