米国のスタートアップ技術の実用化を目指して日本でも起業
まずは御社の会社沿革のご説明をお願い致します。
アセラバイオ・鈴木様:当社は、Ascella Biosystems(アセラ・バイオシステムズ、以下アセラ社)という、米国・サンフランシスコに拠点を置く医療機器スタートアップの日本法人として誕生しました。日本法人の設立にあたっては、アクセルマーク株式会社と株式会社ウィズ・パートナーズの2社から共同出資を受けています。アセラ社において開発中の「複数の呼吸器病原体を迅速に検出する革新的診断技術」について、日本でも医療機器としての承認を取得するべく、我々も三井リンクラボ柏の葉1にて研究開発を進めています。
米国で発売された製品を日本でも製品化するというイメージでしょうか。
アセラバイオ・鈴木様:実はまだ米国でも開発段階で、製品化には至っていません。むしろ日本での製品開発を先行させて、それを米国に逆輸出するという形を想定しています。なぜかといえば、米国本社で開発された技術自体は素晴らしいものなのですが、スタートアップゆえに、製品開発が若干遅れているのです。また、ものづくりに関しては日本人の得意領域であり、さらに最近の円安傾向も重なって、まずは日本で製品開発を進めた方が効率的だろうと判断した結果、日本法人を設立し、日本での開発を先行させることになりました。

最初の製品はいつ頃市場に登場することになりそうでしょうか?
アセラバイオ・鈴木様:まずは来シーズンの上市を目指して、開発を進めています。
いま三井リンクラボ柏の葉1にはどなたが勤務されているのでしょうか。
アセラバイオ・田中氏:三井リンクラボ柏の葉1には、常時わたしが勤務しています。また今秋から新たにパートタイムの研究者にも週3日出社してもらい、計2名で製品開発に向けた研究を実施しています。さらに鈴木氏が三井リンクラボ柏の葉1にきて、必要な研究を行なうこともあります。

画期的な呼吸器感染症迅速診断システムの製品化に挑戦中
現在開発中の製品について詳しく教えてください。
アセラバイオ・鈴木氏:当社は現在、複数の呼吸器病原体を迅速に検出する、革新的な診断技術「AscellaOne(アセラワン)」を開発しています。装置自体は非常にポータブルで、しかも極めて高精度かつ高速診断が可能です。国内では、医療機器(デバイス)および体外診断薬(試薬)としての承認取得を目指して開発を進めています。もっとも、この技術自体は非常に応用範囲が広く、将来的には食中毒検査などにも応用可能だろうと考えています。
アセラワンの技術的な特徴と優位性について詳しくお聞かせください。
アセラバイオ・鈴木氏:従来のPCR検査は温度を大きく変化させる必要があり、検査に時間がかかるのに対して、アセラワンには温度変化が不要な「等温核酸増幅法」が使われています。そのため、検査時間は約6分間と非常に短く、かつデバイス自体も非常にコンパクトで、検査コストも安価なのが特徴です。等温核酸増幅法は、アセラ社が開発した技術ではなく、また等温核酸増幅法を応用した検査機器も、すでに実用化されてはいます。一方で、アセラワンは検査に要する時間が約6分と非常に短い点が、他社製品にはない特徴だといえます。この点はまさにアセラ社のオリジナル技術があってこそ、実現できたといえます。一般的なPCR検査は、高い感度を誇る反面、検査に高額な機器を必要とするため、検査会社に検体を送付しなければならず、結果がわかるまで1日から2日はかかってしまうのが課題でした。逆に、いま医療現場で広く利用されている抗原検査キットは、利便性が高い反面、感度が低いのが難点でした。アセラワンは検査も簡便で、抗原検査と変わらない感覚で利用できて、かつPCR検査並の高感度検査を実現しています。

柏の葉地域は緑が多く研究の合間もリラックスできる場所
三井リンクラボ柏の葉1に入居することを決めた理由をお聞かせください。
アセラバイオ・鈴木氏:日本法人を設立し、日本で製品開発を行うにあたり、開発のためのラボが必要になったことから、三井リンクラボ柏の葉1や新木場2をはじめ、各地の物件を検討させて頂き、最終的に三井リンクラボ柏の葉1を選択しました。柏の葉キャンパスエリアは、街の雰囲気が落ち着いており、食事できる場所なども充実しているところも高評価のポイントでした。
アセラバイオ・田中氏:街全体の雰囲気も良好ですが、さらに緑が多い環境も好きです。ラボの向かい側には公園もあって、研究で疲れた気分をリフレッシュできます。
アセラバイオ・鈴木氏:この前来た時は、タヌキも見かけましたよ(笑)。
実際に入居して感じた「三井リンクラボ柏の葉1」の魅力についてもお聞かせください。
アセラバイオ・鈴木氏:共有機器室なども含めて、館内設備が非常に充実していると思いました。特に大学発スタートアップにとっては、高額機材の購入や工事などにかかる初期投資は非常に大きな負担ですが、三井リンクラボ柏の葉1は、ラボ内に共有機器室が用意されており、セットアップにも対応して頂けるのでとてもありがたいでしょうね。共有設備の中には超純水製造装置もあり、これも非常に助かっています。こうした機器は非常に高額ですからね。

マッチングを通じて当社技術の新たな可能性をさらに拡大したい
これから「三井リンクラボ柏の葉1」で挑戦したい課題などはありますか?
アセラバイオ・鈴木氏:アセラワンの技術を使えば、パンデミック時に街の疫学情報の収集なども可能になると考えています。たとえば、ある地域の感染動向を調べるために、当社の検査キットを小学校などに配布して検査結果を集計すれば、市中の感染ホットスポットを明らかにすることも可能です。アセラワンは、スマートフォンと連携可能なので、スマートフォンを通じて検査結果をクラウド上に集計すれば、ビッグデータにもなります。そういった実証実験を、もし柏の葉を舞台に実現できれば、とても面白そうだなと考えています。
アセラバイオ・長谷川氏:アセラワンについては、医療機器としてのCOVID-19、インフルエンザ検出に対する開発が進行中ですがプラットフォーム技術として、将来的にはCOVID-19, インフルエンザ以外の様々な感染症、食品衛生管理の現場などでも活用できると考えています。今後は、アセラワンの新たな用途について、素晴らしいアイデアをお持ちの会社や研究者の方々とも積極的にマッチングをしながら、その用途をさらに拡大していきたいですね。その意味でも、柏の葉ラボがアセラ社の発信の場となって、様々な提案が飛び交う場所になることにも期待しています。
アセラバイオ・鈴木氏:我々としても、アセラワンおよび当社の等温核酸技術について「こんな検査もできるのではないか?」「新しいマーカー候補を発見したが、アセラワンで測定できないか?」などのご意見やご提案があれば、ぜひとも共同研究を通じて実用化してみたいと考えています。常に門戸は開けていますので、いつでもお声掛け頂きたいですね。
