国立がん研究センターをはじめ日本を代表するアカデミアに近接した、最先端の空間情報解析の研究施設として
御社の事業や研究について教えてください。
アステラス製薬中尾様:当社は 2005 年に山之内製薬と藤沢薬品工業とが合併してできた日本の製薬会社です。医療用医薬品の研究・開発・製造・販売を主な事業として、世界およそ70 ヵ国以上の国あるいは地域でビジネス展開しています。
研究活動は 5 つを重点領域としており、遺伝子治療、眼科領域、ミトコンドリア疾患、標的タンパク質分解誘導(プロテインデグレーター)、がん免疫の5つを重点領域として研究を行っていますです。その中で、がん免疫研究の新たな拠点として「TME iLab」を開設しました。
TME iLab では「がん微小環境の空間情報解析」という最先端の研究をされているそうですが、どんな解析法なのでしょうか。
アステラス製薬中尾様:腫瘍組織には、がん細胞を攻撃する免疫細胞、その攻撃を邪魔する細胞など直接的、間接的に作用する多種類の細胞が存在します。以前は、腫瘍組織をすり潰して、含まれる細胞のシングルセル seq 解析によって特性解析が行われていました。
それに対して、空間情報解析は組織を2次元の階層として捉え、組織をすり潰さずとも、組織に存在する多種の細胞それぞれの何千もの遺伝子・タンパク質発現情報を解析できる画期的な方法です。がん細胞のまわりにどんな細胞がいて、どんな遺伝子・タンパク質を発現しているのかを解析して、がん微小環境の特性を解明していき、新たな治療標的候補分子の同定、薬剤のバイオマーカーの特定につなげていきたいと考えています。
研究では臨床サンプルが必須になりますが、国立がん研究センターが隣接しているのは大きいですね。
アステラス製薬中尾様:その通りです。臨床検体のご提供はもちろん、病態情報と病理組織像の詳細な解釈には、国立がん研究センターの先生がたのアドバイスをいただけるのは非常にプラスです。そのとき物理的に近ければ、やり取りが早く、高頻度にできます。それがこのラボ入居を決めた理由のひとつですし、実際によかったと感じている点です。
御社のパイプラインの臨床試験で行うリバーストランスレーショナル研究にも役立ちそうですね。
アステラス製薬中尾様:そうですね。薬剤が患者様に効いたとき腫瘍の中で何が起こっているのか、あるいは効かなかった場合のメカニズムなどを解析して、層別化バイオマーカー候補、他の薬剤との併用の可能性を推定するなどさまざまな考察ができるのではないかと期待しています。
これから、どのように研究を進めたいとお考えですか。
アステラス製薬中尾様:国立がん研究センターとの共同研究はもとより、がん微小環境研究分野の革新的な専門性、技術を持つパートナーを広く求めています。この拠点に設置した研究機器を利用していただき、社内外の研究者が議論を交わすことのできる場を作っていきたいと思っています。そして、アステラス製薬の創薬ケイパビリティと融合することで、がん治療薬の研究が加速し、革新的な医薬品の創出につなげたいと思っています。
オープンイノベーション拠点として本格運用はいつ頃になりますか。
アステラス製薬中尾様:今は、外部の方にご利用いただくためのルールを策定中で、2024年 4 月には固まると思います。ご興味あればお気軽にお問い合わせください。TME iLab (柏の葉) | アステラス製薬 (astellas.com)
理想的な外部提携拠点を、柏の葉に見つけた
三井リンクラボ柏の葉 1 ご入居のきっかけや決め手は何だったのでしょうか。
アステラス製薬中尾様:基礎科学、医療技術が進歩し、従来の治療法では対処できないより複雑な病気や病態が残された対象となり、また化合物をはじめ細胞、遺伝子など様々な治療法モダリティが増えています。それらの研究を製薬会社1 社だけですべて行うのは難しく、社外の機関と連携した共同研究の重要性が高まっています。
当社は現時点で 100 を超える共同研究を進めていますが、提携先と物理的に近い場所でさらに緊密・迅速に進めるべく、つくば研究センター以外に新たな拠点構築を考えていました。 そんなとき、このラボと出会ったのです。柏の葉エリアは、以前からつながりのあった国立がん研究センターを中心に、東京大学柏キャンパス、千葉大学、産業技術総合研究所柏センターといった日本を代表する先端医療施設、アカデミア施設が近接しておりスマートシテ ィ構築が進んでいます。しかも、我々のつくば研究センターとは、つくばエクスプレス一本で行き来できます。まさに、我々がイメージしていた新たな外部連携拠点を築けると思いました。
第一線の研究者とすぐに会って論議できる、研究の進み方が違う
入居したメリットを教えてください。
アステラス製薬花田様:国立がん研究センターと物理的距離が非常に近いので、気軽にこちらに来ていただいて話すことが多くなりました。電話では伝えるのが難しいときも、実際にお会いすればすぐに話がまとまり、いち早く改善することができます。研究が格段に進めやすくなりました。また、ここで一から研究所を立ち上げる体験をさせてもらいました。例えば実験に必要な器具を細かいものまで入念に準備したり、足りないものがあったら臨機応変な対応を考えたり。その体験を通して、オープンマインドやチャレンジ精神が高まってきたと感じています。それが今後、この TME iLab でさまざまな研究に取り組む際に活きてくるでしょう。
アステラス製薬鈴木様:製薬会社の研究者もこれからはベンチャーマインドや企業家精神が大切と言われていわれているいま、そのロールプレイとしてここでの研究所開設の体験は非常に勉強になっています。
他のテナント様との交流の状況はいかがですか。
アステラス製薬佐藤様:この施設全体の防災訓練があったとき、他のテナントの方々とお会いする機会がありました。それをきっかけに、アカデミアの先生をはじめさまざまな方に我々が入居したことを認知していただき、お話ができるようになりました。このように直接お会いする時間を増やしていきたいと考えています。
ビジネス領域が我々とは異なるテナント様もいらっしゃいますが、アプローチや考え方しだいでは一緒にイノベーションが起こせるかもしれませんし、ここはそういうスパークのきっかけになる施設だと思います。その可能性は大事にしたいですし、我々も起点になれたら嬉しいですね。
アステラス製薬花田様:階下のカフェで国立がん研究センターの先生のセミナーが開かれていて、気軽に行けてよかったです。また次も参加したいですね。
TME iLab での今後の目標や展望をお聞かせください。
アステラス製薬中尾様:空間情報解析研究の第一人者である鈴木先生をはじめ、臨床腫瘍病理分野の石川俊平先生(国立がん研究センター 先端医療開発センター)など、各界の第一人者の近くで一緒に研究できる。これを大きなチャンスとして、研究を盛り上げていきたいと思っています。
また、世界最先端の解析機器を導入していますので、まずはそれを使って患者様にとっての価値を創ること。そこは絶対成し遂げたいと思っています。
加えて、創薬を多くのアカデミアやベンチャーと融合して進めたいです。リンクラボ柏の葉は第 2 期棟も予定されテナント様もさらに増えるでしょうから、それらの方々ともシナジーを広げ、新たな創薬につなげていきたいと考えています。